Dec 04, 2006

はじめてのとーだいじゅけん ( 4 )

前回の続きをそろそろ載せてしまおう.

2.

 駅でクラスメイト達と集合した. これからホテルまでの移動等,クラスの皆と団体行動である. まるで遠足のようで微笑ましいことだな,とも思ったが,朝が弱い俺としては寝坊の心配が無いので助かるというのも事実だ.

 売店前で友人らと雑談. みんな表向きは余裕をみせて笑っているが,内心しっかり緊張しているのが見て取れた. センター試験が唯一の本番ではなく,他のクラスメイトからすれば「お前はセンターとか楽勝だろ」と言われてしまう俺もちゃんと緊張しているのだ. センター試験の点数だけで合否が決まるなんて人の緊張など推して知るべしである.

 電車に乗ってみんなでまとまって座ると,誰からともなく鞄から勉強道具を取り出して確認作業を始めた. 俺も倫理の参考書を開いた. かといって,それほど真剣に勉強するわけではない. なんとなく勉強道具を開いておいて,雑談したり,お菓子を食べたりする.

 「みんなして電車内で参考書開いてるとかきもいよなー」

 なんてことを言ってすかしてみせる人もいたが,そんな余裕は表面上だけのものである事は明らかで本人もそう分かった上での発言だったから,誰も真に受けず,ただ愉快に笑った.

 程なくして目的の駅に着いた.家からそれほど遠い駅ということもないのだが,基本,自分の町を出ることもなく,その中で完結した生活を送ってきていたから,この駅の駅前など見慣れぬ別世界に見えて,いよいよ決戦の地に踏み込んだのだな,などと思った.たかがセンター試験をそこまでドラマチックに感じることが出来る自分自身に驚きであるが,これはいつか自分が,そのようにあろうと心がけた成果だとも分かっていて,ありがたく,決戦地の緊張感を味わった.

 無論,内心がいくらそのような緊張感に満ちていようとも,そうは外面に出さないし出せない.本当に遠足としか思えない調子で,皆とわいわいホテルまで歩いた.

--

 ホテルは駅のすぐ近くで,豪華とはとても言えないまでも,各人に一部屋が与えられるという点で,遠足や修学旅行とは違う印象.とりあえず自分の部屋に荷物を置いて,持参してきた電子機器類(iPod,京ぽん,Sigmarion3)を充電し,インターネット回線が使用できるとのことだったので,フロントまでモデムを借りに行った.いよいよ明日が本番だというこの期に及んでもそういう自分らしさは持ったままでいる,ということは誇らしかったし,そんなことをする余裕があるのだ,ということを自分に示すことで平常心を保っていられるのだとも思った.

 その後の予定としては,センター試験会場の下見があるくらい.それも,予定時刻までまだ余裕があったから,俺はとりあえず一息つこうかなと思い,椅子に腰を下ろした.

 その途端,友人らが部屋の鈴を連打してきた.もう,これでもかというほど.

 「なんだよ?」と,不快に思っていないことは口調で示しつつドアを開けると,
 「部屋みせてー」 と言うなり,友人らはふざけた調子で笑いつつ上がり込んできた.

 「なんか変なにおいするぞ」 と爆笑しつつ言う友人A.悪気があるわけでも,俺に悪口が言いたいわけでもない.まぁ,彼と俺とのコミュニケーションの一環のようなもの.
 「嘘付け.今来たばっかだし臭いとか変わらねーよ」 と,こちらもふざけた調子で応答して,「お前らの部屋もみせろって」 と,笑いつつ自分の部屋を出た.

 彼らとて,はしゃいでみせているのは現実逃避に違いない.もちろん俺なんかと比べて,クラスの皆でどこかで出かけるとか,そういう時にやたらとハイテンションになれるタイプの人だから,素ではしゃいでいる部分もあることはあるのだろうけど,やはり現実逃避に違いはないよな,などと思いつつも,やはり俺もそうやって気の知れた友人と馬鹿をやっているのがとても正しいことに思えたのだった.現実逃避だろと頭が言ってくるがしかし,部屋で思い詰めているよりこうして景気づけにはしゃぐ方がきっと良い結果を生むだろう,と心の方は言っていた.

 友人の部屋の臭いが確かに自分の部屋のそれと違って感じることに驚いたりしつつ,そのまま友人とホテル探検に出かけた.気分は小学生である.自分たちの部屋は屋上のすぐ下,最上階で,その階はほぼ全ての部屋をうちの学校の人が借りていたから,事実上の貸し切り.そのおまけで付いてきたのがコモンルームとでも言うのだろうか,各階にひとつある大きめの部屋だ.夜はその部屋を自習室として開放してくれるとのことで,まずそこを覗きにいったのだが,まだ鍵がかかっていて全く楽しむことができず,満足できない俺達は屋上へ続く階段を駆け上がった.

 そもそも無断で立ち入っていい空間なのかも分からなかったが,そんなことを気にするテンションではない.通路に物が置いてあって多少行きづらいなと感じても動じることなく屋上のドアを目指した.幸いにも,そのドアには,鍵がかかっていなかった.

 屋上は,石畳風の空間になっていて意外に広々としており,落ち着いた雰囲気がとても気に入った.ちゃんと整備はされていたが,他の客は一人もいなかったので,結局立ち入って良い場所なのかどうかは分からずじまいだ.

 「うおー!すげー!」 とはしゃぎつつ屋上を見て回る.石畳風の地面に,凝ったテーブルが置いてあったり,女神像が置いてあったり,ブランコが置いてあったりして,とても雰囲気のある空間に仕上がっていた.天気も快晴でこそ無かったが気持ちの良い日だったから,空が見えるその屋上をいっそう気に入った.ハイテンションなのは変わらずで,明日センター試験を控えた男共で仲良くブランコに乗っていたりして,端から見れば,それはそれは奇妙な光景だっただろう.

 そのうち屋上の存在に気づいた女子や他の男子達が続々とやってきた.個室が与えられているのだからじっくりと勉強することも出来るだろうに,結局みんなでこうやって集ってはしゃぎたがる辺り,やはりみんな精神状態は似たようなものなのだな,と思って,ふと安心感を覚えた.

 しかし,屋上でゆっくりとしていけば良いというのに,俺の部屋の呼び鈴を鳴らした友人らはまだ探検に満足していない様子であり,屋上の隅にあったいかにも 「ここには入らないで下さい」 という雰囲気のドアに気づき,そのドアにも鍵がかかっていないことも同時に発覚したので,意気揚々と出発していった.乗りかかった船だなと思い,俺も後に続いたわけである.

 屋上を掃除するための用具としか見えない物が置かれた物置のような廊下を抜けると,階段になっており階下に通じていた.俺たちが上ってきた階段以外に屋上へ通じる道などフロアには見あたらなかったから,何やら来てはいけない所に来ていることは少し考えれば分かったし,そもそも掃除用具などが置かれている時点で,こちらの経路は従業員用のものなのだということは明白だった……が,そこを敢えて気づかぬフリして進入することが,何やら非常にエキサイティングに思えたのだ.

 廊下の先にはこれといって何もなく,小さなエレベーターに突き当たった.小さな,というのは,3人くらいしか乗れない業務用のそれを指す.一瞬顔を見合わせた俺たちだったが,「ここまで来て引き返す手はないよな」 と言わんばかりにニヤリと笑いあって,エレベーターのボタンを押した.

 客を乗せるためのエレベーターであればありえない酷い音を立ててエレベーターが到着する.幸い中に誰も乗っていなかったので,俺たちは全員エレベーターに乗りきることができた.お互いハイテンションな上,エレベーターの乗り心地は最悪も良いところで,それが自分たちのやっている事のおかしさを象徴しているように思えて,「一体どのような所に出るんだろうな」 と言って,ごく近い未来において自分たちがかくことになるであろう恥の分も含めて爆笑した.

 ところで,俺たちはエレベーターで1Fを指定しようと思ったのだが,何故か1Fがなく,しょうがないということで地下1Fのボタンを押していたのだが.

 予想していなかった階で扉が開いたわけである.

 立っていたのは接客用のスーツを着た男性で,俺たちの姿を認めるなり,おっ,と驚いて一歩後ろに引いていた.いきなり扉が開いて驚いたことに加え,ある意味予想通り従業員の人がお出迎えしてくれ,さらにリアクションまで完璧に決まっていたものだから,俺たちは思わず吹き出してしまった.

 しかし従業員さんを前に爆笑し出すわけにはさすがにいかない.そもそも,俺たちがエレベーターに乗っているせいでエレベーターはぎゅうぎゅう詰めで,従業員さんの乗る余地はないのである.俺達は余計な叱責を受けたくないこともあって,素早くエレベーターを出ると,「すみません道わからなくなっちゃったんすけど,出口どっちっすかね?」 とその従業員さんに聞いた.これで,いきなり従業員用のエレベーターから降りてきた事についての言い訳も,この迷路から脱出する経路を聞き出すことにも成功したというわけだ.

 早足で,教えて貰った道(従業員用の螺旋階段を下りる)を行きながらも俺達は先ほどの事を思い出して爆笑し続けていた.一体何がそこまで面白かったかといえば,無意味に変な所にわざわざ入り込んで,何をするでもなく出口を探しているという行動の意味不明さはもちろん,センター試験の前日の貴重な時間を使ってこのような馬鹿な遊びをしている事が,たまらなくおかしかった.

 そして何人ものスーツ姿の人とすれ違い不審な目で見られつつも,なんとか俺達は目的の1Fに辿り着き,ロビーに戻ることに成功した.

 俺はというとひと仕事終えた気分で,なぜかとても清々しかった.気分転換という意味では,最高に良い気分転換に違いなかった.しかし気づくと時間がそれなりに経過しており,まもなくセンター試験会場の下見に行くという時間になっていた.もうロビーには人がぽつぽつと集まりだしていて,部屋のロックもかけてある事だし今から部屋に戻るのも面倒だと思って,そのまま下見に出発することにした.

 

 

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From : 大学偏差値情報一覧 @ 2006-12-05 18:19:11

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